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VO2maxという生命保険:心肺体力はなぜ最強の予後予測因子なのか

夜明けの道路を走るランナーたちのシルエット

もし将来の死亡リスクを一つの数値だけで見積もれるとしたら、何を測るべきか。血圧でも、LDLコレステロールでも、体重でもない。過去30年の疫学研究が最も強い答えとして繰り返し指し示してきたのは、VO2max――最大酸素摂取量、すなわち身体が1分間に取り込んで使える酸素の最大量である。そして、この指標が特異なのは、予測力の強さそのものよりも、「鍛えれば動かせる」という性質にある。

12万人の運動負荷試験が示した現実

2018年、JAMA Network Open誌に掲載されたクリーブランド・クリニックの研究は、この分野の議論を一段先へ進めた。トレッドミルによる運動負荷試験を受けた12万2,007人を最長で20年以上追跡した大規模解析である。

心肺体力によって5群に分けたところ、最上位群(エリート)の総死亡リスクは最下位群(低体力)と比べて調整後ハザード比0.20――すなわち5分の1だった。年齢や既往を調整してもなお、これほどの差が残る変数は他に多くない。

さらに重要なのは比較対象である。同じ集団において、喫煙のハザード比は1.41、糖尿病、冠動脈疾患、高血圧はいずれもそれ以下だった。低体力であることは、これら既知の危険因子のいずれよりも大きなリスクだったことになる。研究チームは論文中で「体力による便益に上限は観察されなかった」と記した。鍛えれば鍛えるほど、リスクは下がり続けていた。

1METの重みを定量化する

個別の研究ではなく、証拠全体を見渡した数字もある。2009年にJAMA誌に発表されたメタ解析は、健常男女を対象とした前向きコホート研究を統合し、心肺体力が1MET(メッツ:安静時代謝の1倍分。おおむね時速1.6キロメートル程度の歩行速度の差に相当する)高いごとに、総死亡リスクが13%、冠動脈疾患・心血管イベントのリスクが15%低下することを示した。

1METという差は、日常感覚では「少し速く歩けるかどうか」程度である。それが1割を超えるリスク差に対応するという事実は、心肺体力が単なる運動能力の指標ではないことを示唆している。

なぜVO2maxが寿命を言い当てるのか

舗装路を走るランナーの脚のクローズアップ
VO2maxは心臓・肺・血管・筋のミトコンドリアを貫く統合指標である(Photo: Unsplash)

VO2maxが強力な予測因子である理由は、それが単一臓器の指標ではないことにある。酸素は肺で取り込まれ、心臓によって送り出され、血管を通って運ばれ、最終的に骨格筋のミトコンドリアで消費される。この経路のどこか一つでも劣化すれば、VO2maxは低下する。

つまりVO2maxは、心拍出量、肺のガス交換能、血管内皮機能、毛細血管密度、ミトコンドリア量と機能、そして筋量――複数の系の状態を1つの数値に統合したものである。血液検査が特定の分子を測るのに対し、VO2maxは全身の「予備能」を測っている。日常生活に必要な酸素消費量と最大値との差が大きいほど、病気やケガという突発的な負荷に耐える余力がある。

この考え方は、高齢期の自立度とも直結する。加齢とともにVO2maxが低下し、日常動作に必要な水準に近づくと、階段、買い物、入浴といった行為が最大努力に近くなる。要介護状態とは、生理学的にはこの余力が尽きた状態として記述できる。

臨床バイタルサインとしての体力

こうした証拠を受けて、米国心臓協会(AHA)は2016年、Circulation誌に科学的声明を発表した。表題は「臨床診療における心肺体力評価の重要性――バイタルサインとしての体力の主張」。血圧や心拍数と同様に、心肺体力を定期的に評価・記録すべきだという提言である。

実際には、全員に運動負荷試験を行うのは現実的でない。声明は、問診による推定式(年齢、性別、BMI、身体活動習慣、安静時心拍数から算出する非運動推定式)でも十分な予測力が得られるとしている。測定装置がなくとも、体力を臨床の話題に載せることはできる。

加齢とともに何が起きるか

VO2maxは30歳前後をピークに、その後10年ごとにおよそ10%低下する。ただしこの傾きは固定ではない。運動習慣を維持している人では低下率が明確に緩やかで、逆に不活動が加われば加速する。同じ70歳でも、VO2maxの実測値には2倍以上の開きが生じうる。

高齢者への介入試験も行われている。ノルウェーのGeneration 100試験は、70〜77歳の1,567人を5年間追跡し、高強度インターバルトレーニング(HIIT)、中強度持続運動、通常ケアの3群を比較した無作為化試験である。2020年にBMJ誌で報告された主要評価項目(総死亡)では群間に統計学的な有意差は認められなかったが、HIIT群の死亡率は数値上最も低く、VO2maxの改善はHIIT群で最大だった。70代からでも心肺体力が改善するという事実自体が、この試験の重要な成果である。

どう上げるか:強度という変数

スマートウォッチとスマートフォン。ウェアラブルによる心肺体力の推定
主要なスマートウォッチはVO2maxの推定値を日常的に表示する。絶対値より変化の方向に意味がある(Photo: Unsplash)

VO2maxの改善において、運動時間よりも決定的な変数は強度である。2007年にMedicine & Science in Sports & Exercise誌に掲載されたノルウェー科技大学の研究は、同じ総仕事量に統一した条件下で4つのトレーニング様式を比較した。結果、最大心拍数の90〜95%で4分間の運動と3分間の回復を4回繰り返す「4×4分インターバル」がVO2maxを約7%向上させ、長時間の一定ペース走を明確に上回った。

実践的には、週の運動の大半を会話ができる程度の低強度(いわゆるゾーン2)で積み上げ、そこに週1〜2回の高強度インターバルを組み合わせる構成が、多くの研究とアスリートの実践の双方で支持されている。低強度はミトコンドリアの量と毛細血管密度を、高強度は心拍出量の上限を主に押し上げる。両者は競合せず、補完する。

なお、VO2maxのおよそ半分は遺伝的要因で説明されるとされ、トレーニングへの反応性にも個人差がある。他人の絶対値と比べることに大きな意味はない。重要なのは、同年代の分布のどこに位置するかと、自分自身の値がどちらへ動いているかである。

測る:ウェアラブル時代の実際

近年、主要なスマートウォッチが心拍数と走行速度からVO2maxを推定して表示するようになった。研究室での直接測定に比べれば誤差はあり、絶対値をそのまま健康指標として扱うことはできない。

それでも実用上の価値は大きい。同一機種・同一装着条件で継続的に記録すれば、推定値の推移は本人の体力変化を十分に反映する。数か月単位で上向いているのか、横ばいなのか、下がっているのか――この方向性だけでも、行動を変えるには足りる。

厚生労働省が2024年1月に公表した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、成人に対し歩行以上の強度の身体活動を1日60分以上(週23メッツ・時以上)、加えて筋力トレーニングを週2〜3回行うことを推奨している。この水準を満たすことは、心肺体力の維持において最低限の防衛線にあたる。

VO2maxが他の健康指標と決定的に異なるのは、遺伝子とは違って書き換えられ、コレステロール値とは違って薬に頼らずとも動かせる点にある。トレーニングは、いま手に入る中で最も確実な生命保険である。しかもこの保険は、掛金を払っている期間の生活の質そのものを上げる。

出典・参考文献

  1. Mandsager, K. et al. "Association of Cardiorespiratory Fitness With Long-term Mortality Among Adults Undergoing Exercise Treadmill Testing." JAMA Network Open, 1(6), e183605, 2018.
  2. Kodama, S. et al. "Cardiorespiratory fitness as a quantitative predictor of all-cause mortality and cardiovascular events in healthy men and women: a meta-analysis." JAMA, 301(19), 2024-2035, 2009.
  3. Ross, R. et al. "Importance of Assessing Cardiorespiratory Fitness in Clinical Practice: A Case for Fitness as a Clinical Vital Sign. A Scientific Statement From the American Heart Association." Circulation, 134(24), e653-e699, 2016.
  4. Blair, S.N. et al. "Physical fitness and all-cause mortality: A prospective study of healthy men and women." JAMA, 262(17), 2395-2401, 1989.
  5. Stensvold, D. et al. "Effect of exercise training for five years on all cause mortality in older adults - the Generation 100 study: randomised controlled trial." BMJ, 371, m3485, 2020.
  6. Helgerud, J. et al. "Aerobic high-intensity intervals improve VO2max more than moderate training." Medicine & Science in Sports & Exercise, 39(4), 665-671, 2007.
  7. Bouchard, C. et al. "Familial aggregation of VO2max response to exercise training: results from the HERITAGE Family Study." Journal of Applied Physiology, 87(3), 1003-1008, 1999.
  8. World Health Organization. "WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour." 2020.
  9. 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」2024年1月.

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