JP | EN

超加工食品の科学:「何を食べるか」より「どう作られたか」が健康を分ける

加工食品が並ぶスーパーマーケットの陳列棚

栄養学は長らく、食品を成分に分解して評価してきた。脂質は何グラムか、糖質はどうか、食塩相当量は――。だが2010年代以降、この方法論では説明できない現象が次々と報告されるようになった。カロリーも三大栄養素も糖分も食塩も食物繊維もそろえた2つの食事を用意し、被験者に好きなだけ食べてもらうと、片方だけで1日500キロカロリー以上を余分に摂ってしまう。違いは成分ではなく「加工の度合い」だった。

NOVA分類:食品を「成分」でなく「工程」で分ける

この視点を生んだのは、ブラジル・サンパウロ大学のCarlos Monteiro教授らが提唱したNOVA分類である。食品を栄養素ではなく加工の性質と目的によって4群に分ける枠組みで、2019年にPublic Health Nutrition誌で体系化された。

第1群は未加工・最小限加工食品(野菜、肉、魚、米、卵、牛乳)。第2群は加工した料理用材料(油、砂糖、塩)。第3群は加工食品(缶詰、チーズ、パン)。そして第4群が超加工食品(Ultra-Processed Food, UPF)である。UPFは、家庭の台所には存在しない物質――高果糖液糖、水素添加油脂、タンパク質分離物、乳化剤、着色料、香料、増粘剤など――を用い、産業的工程を経て作られる、そのまま食べられる状態の製品を指す。清涼飲料、菓子パン、スナック、即席麺、加工肉、多くの調味済み冷凍食品がここに入る。

NOVA分類の核心は、「健康に悪い成分が入っているから問題」ではなく「そういう作られ方をした製品であること自体が独立したリスク要因ではないか」という仮説にある。

決定的な実験:NIHの代謝病棟で起きたこと

重ねられたチーズバーガー。典型的な超加工食品
超加工食品は柔らかく、エネルギー密度が高く、速く食べられるよう設計されている(Photo: Unsplash)

仮説を検証したのが、米国立衛生研究所(NIH)のKevin Hall博士らによる2019年の研究である。20人の成人を代謝病棟に入院させ、超加工食品中心の食事と最小限加工食品中心の食事をそれぞれ2週間ずつ提供した。2つの食事は、総カロリー、エネルギー密度、三大栄養素、糖質、ナトリウム、食物繊維が一致するよう設計された。被験者は好きなだけ食べてよい。

結果は明瞭だった。超加工食品期には1日あたり平均508キロカロリーを多く摂取し、2週間で体重が約0.9キログラム増加した。最小限加工食品期には逆に約0.9キログラム減少した。同じ人が、同じ栄養組成の食事で、加工度だけを変えた条件下で、これだけの差が生じた。

栄養学において、栄養素をそろえた入院下の無作為化クロスオーバー試験は最も強い証拠形式のひとつである。この一報が「加工度」を単なる観察上の相関から因果の候補へと押し上げた。

990万人が示す健康アウトカム

疫学の側でも証拠は積み上がっている。2024年、BMJ誌に掲載されたアンブレラレビューは、14件のレビュー論文に含まれる45のメタ解析、延べ約990万人分のデータを統合した。その結果、心血管疾患による死亡、2型糖尿病、一般的な精神疾患(不安・抑うつ)については、超加工食品との関連が最も確からしい「convincing(説得力のある)」等級と判定された。

個別のコホートも一致した方向を示す。フランスのNutriNet-Santé研究では、食事に占める超加工食品の割合が10ポイント高いごとに、心血管疾患リスクが12%(2019年, BMJ)、総死亡リスクが14%(2019年, JAMA Internal Medicine)、がん全体のリスクが12%(2018年, BMJ)上昇していた。

なぜ食べ過ぎてしまうのか

メカニズムは複数が並行して働いていると考えられている。

第一に、食べる速度である。超加工食品は加熱と機械的処理によって食物マトリックス(食品の物理的構造)が壊されており、咀嚼をほとんど必要としない。NIHの研究でも、超加工食品期の被験者は1分あたりの摂取カロリーが有意に高かった。満腹シグナルが脳に届くまでには15〜20分を要するため、速く食べられる食品はその時間差の分だけ過剰摂取を許す。

第二に、エネルギー密度と栄養の希薄化である。水分と食物繊維が減り、油脂と精製糖質が加わることで、同じ体積あたりのカロリーが上がる。胃の伸展受容器は重量と体積に反応するため、満腹感の形成が遅れる。

第三に、添加物と腸内環境である。2015年にNature誌に発表された研究は、一般的な乳化剤であるカルボキシメチルセルロースとポリソルベート80をマウスに投与すると、腸内細菌叢の組成が変化し、腸管の粘液層が薄くなって低度炎症と代謝異常が生じることを示した。ヒトでの追試は途上だが、「添加物は代謝的に不活性」という前提が揺らいでいることは確かである。

日本の位置:世界で最も有利な出発点

炊きたてのご飯と味噌汁が並ぶ和食の食卓
米、味噌汁、焼き魚を基本とする和食は、NOVA分類上ほとんどが第1群・第2群にとどまる(Photo: Unsplash)

国際比較において、日本は際立って良い位置にいる。米国では総エネルギー摂取の約58%が超加工食品由来とされる(2016年, BMJ Open)のに対し、日本の家庭における購入食品の解析では、超加工食品の割合は約28%と報告されている(2019年, Public Health Nutrition)。米飯、味噌汁、焼き魚、漬物を基本とする食事構成は、NOVA分類上ほぼ第1群と第2群で完結する。

ただし、この優位は固定されたものではない。単身世帯の増加、中食・惣菜市場の拡大、コンビニエンスストアの普及により、日本の食卓の加工度は上昇傾向にある。国民健康・栄養調査が示す野菜摂取量の長期的な伸び悩みも、同じ流れの中にある。世界で最も低い出発点にいるからこそ、上昇のトレンドを止められるかどうかが問われている。

単純化への警戒:すべてのUPFが同じではない

一方で、「超加工食品=悪」という単純な図式には研究者からも慎重な意見がある。2023年、欧州の大規模コホートEPIC(約26万7,000人)の解析では、超加工食品全体としては、がんと心血管代謝疾患の併存リスクとの関連が認められた一方、下位分類ごとに見ると関連の強さは大きく異なった。加糖飲料や人工甘味料入り飲料、加工肉ではリスク上昇が明確だったのに対し、パンや朝食用シリアルの一部では有意な関連が見られなかった。

NOVA分類は工程に着目するがゆえに、栄養プロファイルがまったく異なる製品を同じ群にまとめてしまう。無糖の全粒粉パンと炭酸飲料が同じ第4群に入ることの妥当性は、いまも学術的な論争の対象である。実践上は、「加工度」と「栄養プロファイル」を二者択一で選ぶのではなく、両方の物差しを併用するのが妥当だろう。

実践:ラベルの読み方が変わる

この研究群がもたらす最大の変化は、食品表示の見方である。従来はエネルギー量と栄養成分表を見ていたが、加工度という観点では原材料名の欄が主戦場になる。台所に置いていない名前――液糖、加工油脂、乳化剤、pH調整剤、香料、酸化防止剤――が並ぶほど、その製品は第4群に近い。

現実的な目標は、超加工食品をゼロにすることではない。忙しい生活のなかで完全な排除は達成困難であり、実行不能な目標は行動変容につながらない。より有効なのは、頻度の高い場面から置き換えることである。毎日の飲み物を加糖飲料から水や茶に替える、朝食の菓子パンをご飯と卵に替える、間食のスナックをナッツやヨーグルトに替える。日常の反復回数が多い食事ほど、置き換えの効果は累積する。

「何を食べるか」から「どう作られたものを食べるか」へ。栄養学の物差しが一つ増えたことは、消費者にとってはむしろ判断を単純にしている。成分表を計算する必要はない。原材料名が短く、読める言葉で書かれているか――当面はそれが最も実用的な指標である。

出典・参考文献

  1. Monteiro, C.A. et al. "Ultra-processed foods: what they are and how to identify them." Public Health Nutrition, 22(5), 936-941, 2019.
  2. Hall, K.D. et al. "Ultra-Processed Diets Cause Excess Calorie Intake and Weight Gain: An Inpatient Randomized Controlled Trial of Ad Libitum Food Intake." Cell Metabolism, 30(1), 67-77, 2019.
  3. Lane, M.M. et al. "Ultra-processed food exposure and adverse health outcomes: umbrella review of epidemiological meta-analyses." BMJ, 384, e077310, 2024.
  4. Srour, B. et al. "Ultra-processed food intake and risk of cardiovascular disease: prospective cohort study (NutriNet-Sante)." BMJ, 365, l1451, 2019.
  5. Schnabel, L. et al. "Association Between Ultraprocessed Food Consumption and Risk of Mortality Among Middle-aged Adults in France." JAMA Internal Medicine, 179(4), 490-498, 2019.
  6. Fiolet, T. et al. "Consumption of ultra-processed foods and cancer risk: results from NutriNet-Sante prospective cohort." BMJ, 360, k322, 2018.
  7. Chassaing, B. et al. "Dietary emulsifiers impact the mouse gut microbiota promoting colitis and metabolic syndrome." Nature, 519, 92-96, 2015.
  8. Martinez Steele, E. et al. "Ultra-processed foods and added sugars in the US diet: evidence from a nationally representative cross-sectional study." BMJ Open, 6, e009892, 2016.
  9. Koiwai, K. et al. "Consumption of ultra-processed foods decreases the quality of the overall diet of middle-aged Japanese adults." Public Health Nutrition, 22(16), 2999-3008, 2019.
  10. Cordova, R. et al. "Consumption of ultra-processed foods and risk of multimorbidity of cancer and cardiometabolic diseases: a multinational cohort study." The Lancet Regional Health - Europe, 35, 100771, 2023.
  11. 厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」2024年.

SHARE THIS ARTICLE

HORIZON Newsletter

最新の健康・長寿研究の記事を月2回お届けします。

登録無料・いつでも解除可能

FROM REFIT INC.

この記事のテーマに関心がありますか?

株式会社ReFitは、エビデンスに基づく健康経営支援・予防医学プログラムを提供しています。企業の健康課題を解決し、社員のウェルビーイングと生産性を向上させます。

ReFit Inc. について詳しく見る

HORIZON編集部

HORIZON by ReFit Inc.

HORIZONは、株式会社ReFitが運営するオンラインマガジンです。査読済み論文と一次データに基づく健康・長寿・予防医学の情報を発信しています。

監修:福田泰士(株式会社ReFit 代表取締役)

STORIES一覧に戻る